相手の立場になる

何か提案するときなど、相手の立場になって考えろと良く言われます。自分がAさんだったら、その提案についてどう思うかを十分に検討してから提案するということです。
でも、これではダメだと思います。自分がAさんの立場だとして、「自分なら」どう思うかを検討してもダメなのです。Aさんがどう思うのかを検討しないといけません。相手の立場になって、自分が考えるのではなく、相手が考えるのです。俺が客だったら、こんな商品なら買ってやる、というのは意味がありません。お客様は俺ではありません。
師匠の一人に言われた事があります。「相手をシミュレートして、相手に成りきって考える」と。Aさんを徹底的にシミュレートして、私がAさんだ。そのAさんは、こういう物が欲しいのだろうと考えるのです。そこに、自分の価値観を入れてはいけません。また、Aさんが買うときに上司の承認が必要だとしたら、その上司を徹底的にシミュレートして、私がAさんの上司だ。その上司なら、こういう物なら承認するだろうと考えるのです。つまり、Aさんに、上司の承認を通すためのアドバイスも提案するのです。ということを師匠から教わったのを思い出しました。
自分が客だったら、こういうのなら買うはずだ、こういう価格なら買わないはずだ、などと考えて提案内容を決めても無駄だと思います。だって、お客様は自分ではありませんから。お客様をシミュレートして、お客様に成りきって、自分ならばという価値観を完全に捨てて、お客様が本当に欲しい物はなんだろうかと考えるのです。そのために必要なのはお客様の情報です。不特定多数に提案したいのなら、どこに提案したいのかを絞り込まないとシミュレートすることは出来ません。
相手の立場になるというのは、自分を捨てるということです。下手に優秀だったり経験豊富だったりすると、そういう自分ならどう判断するか、もしくは、そういう経験があるという前提の相手ならどう判断するか、と考えてしまいます。そんな経験は相手にはありませんし、自分には無い別の経験もあるでしょうから、判断する基準が違うのです。自分を捨てて相手に成りきる。少しも成りきれないのなら、相手について知らないのです。そういう相手に価値ある提案は難しいと思います。