豊かさの精神病理

豊かさの精神病理 (岩波新書)

豊かさの精神病理 (岩波新書)

著者は精神科の医師で、物が溢れる現代ならではの患者の傾向を紹介し、その背景などを考察している。
装飾品や衣服などのブランドに自身のアイデンティティを求め、物の価値こそが人間の価値であるという考えに捕らわれている「物語り」の人々が、精神科を受けに来ることが多いそうだ。彼らは「人と人」との関係を、その間に物をはさむことで、「人と物」「物と人」というようにすることで、人とは物を通じて浅い関係を築いている。人と人との間の葛藤などは発生しない仕組みとなっている。だからこそ、葛藤に対する能力が未成熟なため、些細な葛藤でも思い悩み、精神科に相談に来るらしい。
本書では、物の種類として、ブランド品、グルメ、不倫相手、人形、ペット、さらには家族や自分自身を物化している事例が紹介されている。それぞれの事例に対して、精神科医がどのように話を聞き出し、どのような対応をしたのか、またそれは何故かというのが記述されていて、自己を振り返るに参考となる。「物」を「技術」に置き換えると、わたし自身にも言えることが多々あり、反省するところが多かった。
本書の最後には、このような患者が多くなった原因として、「親しき仲にも礼儀あり」の「和」の精神の具現化が、「物化」によって行われているとしている。だからこそ、「物」を介さないで、人と人との「ドロドロ」した本来あるべき感情に接すると、「土足で立ち入られた」と感じてしまい、精神的に不安定になってしまうのだろうと考察している。